ファシリテーションの心得
ユーザビリティテストをテスト設計に沿って円滑に進行し、被験者の心情に配慮しながら気持ちよくテストを受けてもらえるようにサポートするための、ファシリテーションの心得をまとめています。
多くの場合、被験者とは初対面です。意識的に普段よりも声のトーンを上げて会話して、明るい雰囲気で相手の緊張をほぐし、安心感を与えましょう。
テスト準備中にやること
あらかじめ、被験者に関する情報を知っておくことで、テスト前の事前質問やアイスブレイクに活用し、信頼関係(ラポール)※1の構築に役立てます。
※1 信頼関係(ラポール)とは、お互いを信頼して、安心して自己開示ができる状態のことです。被験者がお客さま(SmartHR Senseiなど)のとき
企業規模、業種、契約プランといった情報だけでなく、過去に要望や問い合わせをいただいている場合には、その内容からどのようにプロダクトを利用しているかを把握しておく。 これまでに参加した他のリサーチがあれば、その記録も確認しておくと、アイスブレイクの話題として使いやすいです。
参考:SmartHRのプロダクトフィードバック専用のユーザーコミュニティ「Senseiコミュニティ」を立ち上げた話
被験者が社内のとき
被験者の自己紹介記事を事前に確認しておきましょう。 カスタマーサポートやカスタマーサクセスのメンバーの場合は、ユーザーの困りごとやわかりづらい機能、ユースケースなど、ユーザーに関して事前質問ができるよう、社内のドキュメントやSlackのデスクチャンネルなどを確認しておきましょう。
テスト実施中に気をつけること
被験者が貴重な時間を割いてテストに参加してくれていることを、忘れてはいけません。
テストの目的を果たすことも大事ですが、被験者が気持ちよくテストを受けられることも意識しましょう。
テスト実施には3ステップあり、それぞれのポイントを説明します。
1.被験者の入室から始まるまで
「テストを受ける」という状況で、被験者は緊張しています。テストが始めるまでに被験者と会話して、緊張をほぐしていきましょう。
ファシリテーターが緊張している場合は、適度に自己開示して、緊張していることを共有するのも有効です。ただし、やりすぎると逆に被験者に不信感を与えてしまいます。
信頼関係(ラポール)構築をする
アイスブレイクや事前質問などは、被験者の緊張を和らげる効果につながります。またテスト中のトラブルがあった場合に円滑にカバーする土壌にもつながります。
一般的には、オープンクエスチョン(はい、いいえで答えられない質問)の質問をすることで発話量が増えます。また、あえてクローズドクエスチョン(はい、いいえで答えられる質問)の質問をすることで、スムーズな受け答えができるように被験者との会話のリズムを掴むことも有効です。
アイスブレイク例:
- 「ユーザビリティテストは初めてですか?」
- 「緊張していますか?」
事前インタビュー例:
- 「どれくらいの頻度で○○機能を使っていますか?」
- 「普段の業務では、○○機能をどのようなフローで使われていますか?」
- 「○○機能で収集した情報をどのように活用していますか?」
録画許可をもらいましょう
zoomを使ったオンラインでテストを実施する場合、イントロダクションで被験者から録画と配信の許可をもらう必要があります。許可をもらったあとは録画ボタンの押し忘れがないように録画が開始したことを確認してから進行しましょう。
2.タスク開始から完了まで
テスト中は被験者が自力でタスク完了できることを第一に考え、基本的に誘導せず、被験者の操作と発言を見守るようにしてください。
被験者を誘導する場合
テスト中の被験者に過度にプレッシャーを与えると、検証したい目的を達成できなかったり、被験者が今後テストにネガティブな印象を抱いてしまうことがあります。
以下のような場合には、テストの結果に影響を与えないように配慮しながら被験者が操作しやすいように誘導します。
- 迷っていることが明確で、自力で解決できる様子がなく、タスクが進んでいないとき
- 検証範囲を逸脱して自力で復帰できないとき
- 検証範囲以外で躓いているとき
テストに影響する可能性がある場合の声かけ例
原則として、被験者の質問にはテストに直接影響を与えない範囲で答えます。しかし、上記のように影響する可能性がある状況でもコミュニケーションが必要になる場合があります。対策として、あえて質問に質問で返すことで、被験者の自発的な発話や行動を促すように誘導します。
例:
- 被験者)「〇〇の操作はどうやったらできますか?」
- ファシリテーター)「被験者さんはどうやったらできると思いますか?」
- 被験者)「〇〇を〇〇したらできますかねー?」
- ファシリテーター)「被験者さんの思うように操作して大丈夫ですよ」
思考発話を促す
思考発話とは、操作しながらその時に考えていることを発話することです。
被験者は、操作と発言を同時にすることに慣れていないことが多いため、無言になったり、途中で発話が止まることがあります。ファシリテーターは、以下のような声がけで思考発話を促してください。
例:
- 「どうかされましたか?」
- 「今何を考えていますか?」
- 「何をしようと思っていますか?」
テスト中に被験者と会話を続けてはいけません。
思考発話を促したあとに被験者と会話が続いてしまうことがあります。被験者の操作や思考に影響を与えてしまい、テストが正常に進行しなくなってしまわないように、被験者の自発的な行動を促せるように返答しましょう。
例:
- 「思ったとおりに操作して大丈夫ですよ」
- 「自由に操作してみてください」
3.振り返り質問
振り返りでは、被験者の行動と思考発話で気になったところを質問することで、被験者の「行動」と「思考」を一致させることが目的になります。
テスト後の被験者の意見にはバイアスがかかります。テスト序盤よりも終盤の印象を元に話したり、無意識的に自分をよく見せる発言をすることがあります。また、テスト結果やプロダクトに満足していなくても、印象が良くみえる発言をしてしまうこともあるのを覚えておきましょう。
振り返りの質問のコツ
被験者の意見はそのまま受け止めず、補足情報と考えましょう。被験者の「行動」を観察し、気になる行動に対して質問します。
被験者は答えを持っていません。具体的な改善案は開発チームで考えましょう。
例:
- 「〜〜〜していたときは何を考えていましたか?」
- 「普段からその様な行動をしていますか?」
- 「この機能が使えないと業務ができないですか?それとも、あれば便利くらいですか?」
返答に対してどれくらいの気持ちなのか聞く
被験者からはさまざまな感想や印象が得られますが、必ず意図を確認しましょう。
「使いづらい」という一言でも、「全く使えない」のか、「面倒だけれど使える」のか、では大きな違いがあります。
10点満点中何点かを聞く
点数自体に統計的な意味はもたせていません。「10点に達しなかった理由」を被験者が話しやすくするための質問です。これによりどこに不満を持っているかをはっきりさせ、フィードバックを出しやすくします。
聞くべきではない質問
テスト中の失敗やうまくいかなかったことに対して、原因を被験者に求めるのはやめましょう。原因を考えるのは開発メンバーです。 たとえば、被験者はよくプロダクト内のテキストを読み飛ばすことがありますが、「なぜ読み飛ばすのか」は聞かず、「その時の行動に対して何を考えていたか」を確認してヒントを得るだけに留めましょう。
例:
- 「◯◯◯のテキストを読まずに✕✕✕を操作しているようでしたが、そのとき何を考えていましたか?」
新しいタスクをその場で追加しない
検証したいタスクは事前に洗い出してテスト設計時に組み込むようにしてください。 なお、テストに必要あればタスクの範囲外のUIや画面も適宜見てもらいましょう。
テスト実施後に気をつけること
被験者に対して
テスト終了後、被験者に参加してくれたことに対してお礼をしましょう。具体的にテストのどの部分が参考になったか、テストを実施したことによってどのような改善や対応に繋がったかを共有することは、被験者がプロダクトに貢献できたと感じられる、テスト実施側からの重要なフィードバックです。
また、テストによって見つかった改善がリリースされたときに連絡することも大切です。
開発チームに対して
テスト後には、被験者の行動を分析してプロダクトの改善ポイントを決める「トリアージ」を実施します。かならず開発チームと一緒に実施し、被験者がどのように行動したのかの共通認識をつくってください。