伝わる文章
相手に誠実に、わかりやすい文章を書くための心がけをまとめました。
どういう思考プロセスからどんな表現が生まれるのか、参考として実例を紹介しています。実際に読み比べ、SmartHRの従業員として何かを伝えようとするときの、参考にしてください。
伝わる文章のガイドライン
何を伝えるかによって、必要な情報の量や説明の粒度は異なります。
情報が不足していたり、逆に情報が多すぎたりすると、読者が意図を読み取れないことがあります。
読み手となる相手の状況(読む場面、事前知識など)を踏まえ、言葉にする内容や表現を厳選することが大切です。
目的に合わせて情報を取捨選択する
読者の目線に立ち、コンテンツの目的に合わせて情報を取捨選択しましょう。
実例1:法律や業務に関わる記事
目的
業務に関係する「厚生年金保険」について正確に知りたいと思っている人に、わかりやすく内容を伝える。
Before
日本の年金制度は、全国民に共通した基礎年金(国民年金)を基礎に、2階部分にあたる厚生年金、その上乗せ部分である企業年金の3階建ての体系となっています。では、企業年金とはどのようなものでしょうか。企業年金とは、企業が社員に対して年金を支給する仕組みのことです。企業年金には3種類の年金制度があり、その3つでいろいろと条件が違ってきます。詳しくは、後述します。
厚生年金保険の内容を伝えるための文章にもかかわらず、厚生年金保険以外の話から始まっており、「厚生年金保険」でインターネット検索をした人が「厚生年金保険」とは何かを把握するのに時間がかかる内容になっています。
After
厚生年金保険とは、企業に勤める会社員が加入する公的年金制度です。厚生年金保険の「適用事業所」となっている会社で働く70歳未満の従業員は、国籍や居住地などにかかわらず厚生年金保険に加入します。厚生年金保険と健康保険をあわせて社会保険と呼び、原則として厚生年金保険と健康保険はセットで加入します。
「厚生年金保険」の定義を端的に述べたあとで、詳細を説明する流れです。
また、読者が知りたいキーワード「厚生年金保険」が冒頭にあることで、求めている記事だと読者が早い段階で認知でき、その後の説明を理解しやすくなります。
実例2:ユーザー向けリリースノート
目的
すでに機能を使用しているユーザーや、これから使用を検討している見込みユーザーに、機能の変更点を具体的に伝える。
Before
今回のリリースで、家族情報に「留学生に該当するかどうか」および「留学を証明する確認書類」の情報をシステム標準項目として追加し、手続きに必要な内容を登録・収集できるようにしました。
「情報」という言葉では、どんな項目がどこに追加されたのか、変更点が具体的に伝わりません。
After
今回のリリースで、家族情報の住所で[別居]を選択した場合に[留学生]の入力欄と下記項目が表示されるようになりました。これにより、手続きに必要な情報を登録・収集できるようにしました。
・[留学生に該当する]
・[留学証明書類]
家族情報の[留学生]に関する項目を2件追加されたという変更点を具体的に把握しやすくなります。
適切な言葉を選んで書く
読者が受け取る印象を意識して、言葉を注意深く選んで書きましょう。
実例1:ユーザビリティテストの手引き
読者に与えたい印象
ユーザビリティテストに取り組む被験者の方の不安を取り除き、安心感を与えたい。
Before
テストされるのは、プロダクトです!被験者ご自身がテストされるわけではありませんので、操作に慣れていなくてもご安心ください!
「!」の使用で内容が強調され、ユーザビリティテストへ取り組むことへのプレッシャーを与える印象を受けます。
After
テストの対象はプロダクトであり、被験者ご自身ではありません。操作に慣れていなくてもご安心ください。
過度な強調をやめ、落ち着いた表現に変更することで、ユーザビリティテストへの不安や緊張をやわらげる印象にしています。
実例2:プロダクトエンジニア組織について紹介したインタビュー記事
読者に与えたい印象
採用候補者を中心としたSmartHR社外の方に、SmartHRの開発体制について正しく伝えたい。
Before
エンジニアリング領域に留まらずにヒアリングを実施し、PMの意見も聞きながら、ユーザーが何に困っているのかを理解する必要があります。
PMは「プロジェクトマネージャー」の略称と捉えられることが多く、SmartHRの役職表記のように「プロダクトマネージャー」として認識されないことがあります。
After
エンジニアリング領域に留まらずにヒアリングを実施し、PM(プロダクトマネージャー)の意見も聞きながら、ユーザーが何に困っているのかを理解する必要があります。
括弧書きで補足することで、略称の意味が認識の齟齬なく伝わるようにしています。
実例3:デザイン組織について紹介したインタビュー記事
読者に与えたい印象
クリエイターを中心としたSmartHR社外の方に、SmartHRのデザインの考え方について正しく伝えたい。
Before
パンフレット1枚でも水のデザインでも、社内外のあらゆる制作物の細部までクオリティにこだわることでプロダクト以外でも「良さそう」と感じてもらい信頼につなげることが役割だと思っています。
「水のデザイン」が何を指すのかわかりづらく、物質としての水の話にも読み取れてしまいます。
After
パンフレット1枚でも、水のペットボトルのラベルでも、社内外のあらゆる制作物の細部までクオリティにこだわります。プロダクト以外でも「良さそう」と感じてもらい、信頼につなげることが役割だと思っています。
「水のペットボトルのラベル」と、誰が読んでも同じものをイメージできる表現に言い換えています。
実例4:取材を受けた人のセリフをそのまま使わない例
読者に与えたい印象
取材を受けた人が話した内容を正確に、客観的に受け取ってもらいたい。ネガティブな印象を与えないようにしたい。
Before
△△業界は勤怠管理がいい加減で、ブラック企業が多いですよね。だから離職率も高いんです。
事実だとしても、特定の業界に対して攻撃的でネガティブな印象を与えてしまいます。
After
◯◯のデータによると、△△業界は離職率が平均◯%で、決して低い数字ではありません。
主観的に受け取れる表現は削除し、根拠となるデータを提示することで、客観的に事実を伝えています。
実例5:社内報記事で過度に攻撃的に見える言葉の選択の例
読者に与えたい印象
ネガティブな印象を与えずに事実を伝えたい。
Before
社内の運用が変わったタイミングだったので、騙されてしまった人が多かったようです。
「騙す」は意図的にあざむいた意味合いを持ってしまい、本来はない悪意を感じさせます。
After
社内の運用が変わったタイミングだったので、誤解してしまった人が多かったようです。
「悪気はなく間違えてしまっただけ」という意図が正しく伝わるようになります。
正しい文法で書く
文章を構成する要素を意識し、文法を正しく守って書きましょう。
実例1:正しい文法かどうかを確認して書く
Before
こちらの資料をご参考ください。
メールや口頭で使用されることが多い「ご参考ください」という表現は、文法として正しくありません。「ご〇〇ください」は「ご利用ください」など、「〇〇する」と言い換えられるときに使用します。
After
こちらの資料をご参考にしてください。
正しくは「ご参考にしてください」です。使用したことのある表現であったとしても、文法として誤っていないかを確認してから使用しましょう。
実例2:一文一義で書く
Before
1ヶ月の契約期間中に登録された従業員情報(在籍中+休職中)の最大人数×単価が契約終了日の翌日にクレジットカード決済されます。
「金額の内訳」と「決済」の2つの情報が一文で書かれています。また、主語と述語が曖昧になり、一読して理解しづらい内容になっています。
After
請求額は、1ヶ月の契約期間中に登録された従業員情報(在籍中+休職中)の最大人数×単価です。契約終了日の翌日にクレジットカード決済が行なわれます。
文章を2つに分けたことで、「金額の内訳」と「決済」の情報をそれぞれ理解しやすくなります。
実例3:短文で書く
Before
SmartHRに登録されている従業員情報と、CSVファイルに記載の被保険者整理番号、マイナンバー、基礎年金番号のいずれかが一致しないと、手続きが作成されません。
一文が長く、手続きの作成に必要な情報は何かを把握しづらくなっています。
After
手続きの作成には、CSVファイルに記載した下記のいずれかが従業員情報と一致している必要があります。
・被保険者整理番号
・マイナンバー
・基礎年金番号
箇条書きを使うことで、手続きの作成に必要な情報を理解しやすくしています。
実例4:情報の重複がないように書く
Before
部署情報の登録には、部署項目の更新権限が必ず必要です。
必要という言葉自体が「必ず」という意味を持つため、「必ず」と「必要」の意味が重複しています。
After
部署情報の登録には、部署項目の更新権限が必要です。
意味の重複を解消すれば、簡潔で読みやすくなります。
実例4:主語を意識して書く
Before
すでに他のSmartHR企業アカウントに登録されているメールアドレスを招待した場合、自動的にマルチログインアカウントとなります。
主語が省略されていて、何がマルチログインアカウントになるのかがわかりません。
After
すでに他の企業アカウントに登録されているメールアドレスの場合、アカウントは自動的にマルチログインアカウントとなります。
主語「アカウントは」を補うことで、何がマルチログインアカウントになるのかが明確になります。
実例5:格助詞を省略せずに書く
Before
項目名変更して、操作完了します。
格助詞がないため、「項目名変更」や「操作完了」といった固有名詞があるように受け取れます。
After
項目名を変更して、操作を完了します。
格助詞の「を」を加えると、言葉同士の関係がわかりやすくなります。
実例6:読点(、)を正しい位置に打つ
Before
従業員リストでは条件を設定して従業員を絞り込んで表示できるほか項目を選んで従業員情報をダウンロードもできます。
読点がなく、情報の切れ目がわかりづらくなっています。
After
従業員リストでは、条件を設定して従業員を絞り込んで表示できるほか、項目を選んで従業員情報をダウンロードもできます。
読点は、意味のかたまり(チャンク)を判別しやすい位置に打ち、目に入りやすいようにすると、読みやすくなります。 チャンクとは、認知心理学の用語で「人間が知覚する情報のまとまり」のことです。
実例7:不要な二重否定がないか
Before
住所変更手続きの[作成]権限がない場合、ホームにある[従業員の住所変更]または[住所変更の手続き]から住所変更手続きを作成できません。
「権限がないと手続きを作成できない」と二重否定になっていることで、読者は「権限があると手続きを作成できる」と読みかえなければ、意図を理解できません。
After
住所変更手続きの[作成]権限がある場合、ホームにある[従業員の住所変更]または[住所変更の手続き]から住所変更手続きを作成できます。
二重否定をやめて肯定文にすることで、読者が読みかえることなく、そのまま意味を理解できる表現にしています。
チェックリスト
読者が理解できる言葉を使っているか
- 一般的でない、読者によって受け取る意味が異なる言葉を使っていないか
- 意味の解釈が人によって異なりそうなカタカナ言葉を多用していないか
- 漢字への言い換えを検討できないか
- 同じ意味の言葉を別の言葉で表現しているなど、言葉の揺れがないか
- 「旧い」や「想い」など、常用漢字表にない読み方を使用していないか
- 基本的に常用漢字を使いましょう。ただし、マーケティングメッセージなど、あえて常用漢字ではない表現を意図的に使うケースは、この限りではありません。
与えたい印象と異なる言葉選びをしていないか
- 漢字を多く使用しすぎて、難解な印象や威圧感を与えていないか
- ひらがなを多く使用しすぎて、子どもを相手にするような印象を与えていないか
- ひらがなに相当する漢字が何かを判断する手間が読み手に頻繁に発生していないか
- 同じ言葉を繰り返して使ってしまい、読みづらくなっていたり、稚拙な印象を与えていたりしていないか
- SmartHRのパーソナリティに沿わない言葉を使用していないか
正確かつ客観的に内容を受け取ってもらえる言葉を使っているか
- 過度にネガティブな印象を与える表現になっていないか
短文で書けているか
- 一文が長くなっていないか(一文の目安は50文字程度)
- 「〇〇できる」を「〇〇することができる」としているなど、冗長な表現がないか
- 複数の意味が一文に含まれていないか
- なくても意味の通じる補足を入れていないか
- 補足することで主語と述語が離れたり、係り受けが曖昧になっていないか
- 「また」「そして」など、なくても意味が通じる接続詞がないか
- 同じことを別の言葉で繰り返しているなど、情報の重複がないか
- 並列の情報が続く場合、箇条書きにできないか
「主語」を意識して書けているか
- 主語を省略していないか
- 主語を省略する場合、省略して意味が伝わりづらくなっていないか
格助詞を省略せずに書けているか
- 格助詞が省かれてしまい、言葉同士の関係性がわかりづらくなっていないか
読点(、)を正しい位置に打てているか
- 無駄な読点が多く、文章が細切れになって読みづらくなっていないか
- 読点が少なすぎて、意味のかたまりや文の区切りがわかりづらくなっていないか
不要な二重否定がないか
- 「〜できないこともありません」よりも「〜できます」など、肯定文で表現できないか